言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

10の質問。

NHK/BS2(現BSプレミアム)で「アクターズ・スタジオ・インタビュー」という番組があった(原題:INSIDE THE ACTORS STUDIO)。もう17年くらい前の話だ。

 

ACTORS STUDIOといえば、ジェームズ・ディーンマーロン・ブランドなど、数々の名優たちが演技を磨いたスタジオ。もともとは映画監督のエリア・カザンが創設した俳優養成学校で、映画・演劇全般に関わる人材育成機関として知られている。現在は、アル・パチーノエレン・バースティンハーヴェイ・カイテルが共同で学長を務めている。

 

BS2では毎回『〜自らを語る』というタイトルで放送されていた。20年以上にわたり司会を務めたのが、同スタジオの副学長でもあったジェームズ・リプトンさんだ。

 

スターたちと差し向かいで座り、1対1でじっくりとインタビューするスタイルが人気だった。。番組を立ち上げたのは1994年。著名な俳優や映画監督を招き「アクターズ・スタジオ」に通う生徒らの前でインタビューをする。ゲストとして登場した俳優には、ポール・ニューマンバーブラ・ストライサンドメリル・ストリープダスティン・ホフマンロビン・ウィリアムズアンソニー・ホプキンスなど錚々(そうそう)たる顔ぶれが並ぶ。

 

デトロイトで生まれたリプトンさんは、ニューヨークで俳優としてのキャリアをスタートさせ、その後はテレビドラマの脚本のほか、テレビや舞台のプロデュースを手掛けた。「アクターズ・スタジオ・インタビュー」は2018年まで担当。その間、番組は米テレビ界の最優秀作を選ぶエミー賞に20回ノミネートされている。リプトンさん以降は、同番組は複数の司会者が交代でインタビューを行った。

 

視聴者を意識した解説をほんの少々、質問はほとんど一言というのが、定番のスタイルだった。
「なぜ、その映画に?」
「そのときの気分は?」といった具合だが、出演者は緻密な調査を下敷きにした進行にのせられ、いつの間にか、心地よさそうに裸にされてしまう。

 

印象深かったのか、手元に、ジョディ・フォスターの回のメモが残っている。過去の演技について問われ、回想している間に涙を溜めるといった場面もあったが、聴き手は情に流されることなく、冷徹なまでに淡々と言葉を引き出していく。最後は恒例の「10の質問コーナー」で、どの出演者にも同じ質問を投げかける。話し手は、むしろ心地よさのなかにいるかのようである。


1.好きな言葉は
2.嫌いな言葉は
3.胸躍るのは
4.うんざりするのは
5.好きな音は
6.嫌いな音は
7.好きな悪態は
8.就いてみたい職業は
9.絶対ご免の職業は
10.もし天国が存在するなら、到着したとき、神に何と言われたい

瞬時に戸惑うことなく、質問に答えられる出演者たちも素晴らしかったが、実は、ここに来るまでに、インタビュアーによって十分過ぎるほど気持ちはほぐされ、解体されている。

 

最後の最後に放たれるこれら10の質問で、トドメを刺すかたちだが、矢継ぎ早に放たれる質問に露わになる言葉には、語り手の無意識までが刻まれる。この手法に、学ぶことは少なくなかった。


インタビューの真骨頂ともいえそうだが、近頃、新聞、テレビなどのニュースを見ていて、登場する人物たちの奥に眠る言葉を、もう少し聴いてみたい、と思うことが多くなった。1.好きな言葉は 2.嫌いな言葉は 3.胸躍るのは 4.うんざりするのは───。自分のことも、こんなふうに聴かれてみたい、というのが本音かもしれないです。