言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

ラビットホール

「Rabbit hole」(ウサギの穴)とは、

不思議の国のアリス」でウサギを追いかけて

アリスが落ちてしまった穴のこと。

 

幼い息子を事故で失った夫婦は

ある日突然、

不思議の国に迷い込んでしまったアリスのように、

以前とは全く異なる現実で生きることを

余儀なくされる。

 

母娘が語り合う場面が、印象的だ。

「悲しみは消えるの?」

「消えない。でも、耐えやすくなる」

 

半狂乱になってまで悲しみを「ゼロ」にしようと

懸命に生きる娘キッドマンに向かって

母親(ダイアン・ウィースト)は穏やかに、

しかし、毅然と「悲しみは、消えない」と断言する。

 

最初は大きな石のような悲しみも

次第に小さくなって、

やがては、ポケットに入る小石のようになっていく。

消えないけれど、必ず小さくなっていく。

 

時折、ポケットに手を入れて

その悲しみの小石にふれることは

亡くなった人とふれあうことでもある。

だから、むしろ

悲しみは「ゼロ」にはしてはいけないのだ…

といった言葉の往還がある。

 

 

「Rabbit hole」は

本来の目的から逸れてしまう、

「泥沼状態」に入り込んでしまう、

そんなイメージがある。

出口の見えないトンネルでもがく、

といった感じで使われることも少なくない。

 

映画「マトリックス」には、こんな場面があった。

モーフィアスがネオに

赤いピルと青いピルを選択させる───。

 

You take the blue pill – the story ends,

you wake up in your bed

and believe whatever you want to believe.

You take the red pill – you stay in

Wonderland and I show you

how deep the rabbit-hole goes.

 

底知れない、怖い世界の例えでもあるが

自分の意志で一歩を踏み出せば

必ず、別の世界が準備されている、

といった前向きな解釈をしてもいいのかもしれない。

 


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ラビット・ホール

監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル

出演:ニコール・キッドマン

アーロン・エッカートダイアン・ウィースト

 

大事にしている作品の一つ。

原作はピュリツァー賞を受賞した戯曲。

ニコール・キッドマンの演技も素晴らしいが

ハンナとその姉妹」に出ていた

母親役のダイアン・ウィーストが作品全体の芯になっている。

二人は共にアカデミー女優。