言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

「マローンおばさん」。

ここで生きながらどこかを求め、誰かといながら孤独を感じる。そんなことが、よくあります。あなたのほんとうの居場所は、と問われて黙り込んでしまう人は、どれくらいいるでしょう。自分もその一人。そんなとき、闇に覆われた心にぽっと灯りをともしてくれる1冊が「マローンおばさん」です。

 

作家・詩人であり、第1回国際アンデルセン賞受賞者エリナー・ファージョン(1881年‐1965年)の詩を翻訳、絵本化した作品。ファージョンはイギリスのアンデルセンとも呼ばれ「ムギと王さま」などの作品も人気です。絵はエドワード・アーディゾーニ。

 

「マローンおばさん」 

エリナー・ファージョン 作   エドワード・アーディゾーニ 絵   

阿部公子 訳  茨木啓子訳 こぐま社

定価 1,100円(本体 1,000円)

 

 

森のそばで、一人貧しく暮らしていたマローンおばさん。誰一人おばさんを訪ねる人はなく、気にかける人もいませんでした。

 

ある冬の月曜日、みすぼらしくて弱りはてたスズメが1羽、窓辺にやってきました。おばさんは「あんたの居場所くらい、ここにはあるよ」と、スズメを抱いてつぶやきました。

 

火曜日の朝、おなかをすかせ、棒切れのようにやせこけたネコが、水曜日には6匹の子ギツネを連れた母さんギツネが、そしてクマが…。

 

「あんたがたの居場所くらいここにはあるよ」

 

訪ねてくる動物たちには心安らぐ居場所が与えられますが、おばさん自身の居場所はどこに? 

 

土曜日の夜が来て 

ごはんの時間になったけど 

おばさんは 起きてこなかった。 

ネコが ニャーと鳴き、 

スズメが チイといい、

キツネは いった。 

「ねむっているのよ」 

クマは いった。 

「ねかせておこう」

 

たくさんの愛情を受けた動物たちに見守られながら、マローンおばさんが天国へと旅立つ日。ロバの背に乗せられ動物たちと進む光景は、神様の世界への旅立ちを象徴しているかのようです。

 

 

 

 

 

ロバの背中に 

マローンおばさんを乗せて

動物たちは 

運んでいった。

木立をくぐり 山を越え

ひと晩中 歩きつづけた。

そして 日曜の朝が来て

最後の雲の峰を越え

天国の門へと 進んでいった。

 

おばさんがロバの背に乗せられ動物たちと進むページ以降、後半は宗教色が色濃く感じられます。が、時の流れがゆったりと感じられる展開は、私たちのほんとうの居場所を求めて歩む旅を示唆しているようでもあります。

 

天国で「だれだね」と迎える神様に向かって、ロバにスズメ、ネコにキツネにクマは声を揃えて叫びます。

 

ご存じないのですか、(神さま、お恵みを!)

わたしたちの母さん、

マローンおばさんを。

貧しくて、なにも持ってはいなかったけど、

広く大きな心で 

わたしたちに居場所を与えてくれました。

 

原文では、物語の最後で神様が、マローンおばさんに、こんなふうに語りかけています。

 

There's room for another One, Mrs.Malone.

 

穏やかで簡潔な文体と落ち着いた黒のペン画とが、独り貧しい生活を送るマローンおばさんのあたたかな心を描ききっています。人としてのやさしさ、希望、巡礼にも似た人生の旅を提示する、宝石のような輝きを持つ物語。

 

大丈夫、どんな人にも必ず「居場所」はあるんだよ。つらいこと、かなしいことがあったときは、いつでもここにおいで。そんなふうに語りかけてくれる絵本でもあります。冬のイメージが強いのですが、季節を問わず、気持ちが少し冷え込んだときに、読んでしまいます。