言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

犬と人。

おつきあいのある会社に雑種の大きな犬がいた。こんにちは、といって玄関を開けると、はっはっはっと息を切らして事務所の奥から、走ってくる。 からだを脛にこすりつけながら顔をあげ、目が「撫でろ」といっている。喉元をさすり、頭を撫で、おなかをポンポ…

手入れと丁寧。

■ 朝の「拭き掃除」を始めて15年ほどになる。雑巾を固くしぼって玄関の土間や仕事場の机、リビングの床などを拭く。きれい好きというわけではなく、手入れをすることで空間がきれいに見えてきて、頭の中が整理されていくのが心地よい。 拭き掃除を始めてから…

小樽。

週末、小樽を歩いた。1年ぶりのことだ。今回も、天気に恵まれた。これまで10回以上訪れているが、不思議なことに、悪天候だったことはない。 明治から大正にかけて北海道における経済・文化・商業の中心地として栄え「北のウォール街」と呼ばれた。そして、…

じゃあね。

新千歳空港からの電車を札幌で乗り換え、Aという町まではかれこれ90分。そこから、実家のあるB町まではわずか9キロだが、ここからの交通の便が極端に悪い。バス、電車ともに1時間に1本。待ち時間なしで、空港からA駅まで来ても、いつも駅で1時間ほど時間を…

子どもの言葉。

灰谷さんの本はたくさん読んで、たくさん捨てた。灰谷さんが亡くなったとき、そばに置くのがつらくなったからだ。 本を開くたびに、子どもたちの作文や詩に寄り添いながら、大人としての自分を律する姿が目に浮かぶ。 あれから何年たっただろう。いつの間に…

キヨシさんのこと。

大学時代。横浜市内のある駅の売店でバイトをしたことがあった。売店といっても構内に2本あるホームの売店にジュースやビール、牛乳などを運ぶ、いわば運び屋だ。 牛乳瓶が60本入ったケース1箱は、おそらく20キロ以上の重さがある。それらを缶ジュースや缶…

ひとりぼっちこそが。

事務所には毎日のように宅急便が出入りする。こちらから「時間指定」で送ることは滅多にないが、留守のときには、再配の連絡をすることになる。 1つの小さな荷物のために同じ道を往復する。ほんとうに気の毒だ。当たり前だが、それが「当たり前」となってい…

「黒」と「玄」。

デジタルカメラが主流になる以前、写真の現像といえばプリント、ポジともにラボに預けるよりほかはなく、手焼きで仕上げるのはちょっとオタクな人か裕福な部類に入る人たちだけだった。 白黒フィルムだけでもフジのネオパン、コダックのトライX、イルフォー…

「はる」という名のネコ。

前の前の年の秋頃から、庭先に通ってきた野良ネコがいた。週に何度か縁側で休むようになった。撫でてやると、体をすり寄せてくる。冬になっても、週に数回、やってきて、その回数は少しずつ増えていった。 雪の日は、雪を漕いでやってくる。朝、窓の外を見る…

任せる。

父が亡くなって30年以上が過ぎた。実家は北海道の小さな町。母にはずっと一人暮らしをさせてきた。申しわけないと思いつつ、年に一、二度しか帰省してこなかった。帰るたび、母子二人で行う作業があった。作業といっても、小さな金庫を開け、通帳や生命保険…

かなしいことがあったら。

〇日 一時はこの仕事、ほんとうに完成できるのだろうかと考え、眠れぬ日々が続いた。しかし、不安は杞憂に終わる。昔、「杞の国」に住む男が、天が崩れたら自分の住む場所がなくなってしまう、と心配した中国の故事から生まれた言葉とされる「杞憂」。 玄関…

寄る辺なき魂の祈り。

1970年代に入る前から、水俣病は大きな問題となっていて、ベトナム戦争と同じくらい、連日ニュースで取り上げられていた。四日市、川崎、水俣イコール公害で、煙だらけといった印象しかなかった。 水俣の問題は、煙ではなく、海だった。最初に現実の一端にふ…

書くことの効用。

〇日 パソコンにメモとして記録した時期もあったが、いつの間にか手書きのメモに戻っている。3号というA5のノートに、気になった言葉を書き写す。目を病んで、新聞の小さな文字が読めなくなって、手書きのメモも滅ってきた。 書くことで(RAS/Reticular …

さじ加減。

「薪を2、3本持ってこい」と母にいわれ、物置から薪を3本持っていくと「バカモノ」と叱られた。子どもの頃の話である。「タバコを2、3箱買ってこい」と父に頼まれ、家の前にあるお店からタバコを2箱買ってきたときにも「バカモノ」と叱られる。2、3…

沖縄。

■Koza (Okinawa City) ■Kadena Town ■Shuri Castle(Naha city) ■Shurikinjo Stone Pavement(Naha city) ■Market(Naha city) ■Kudaka Island しばらく、沖縄に滞在した。仕事の合間、少し足を延ばして、那覇周辺の町や村を歩いた。本島にはモノレール以…

読んだ本の記録─── あの人の「眼差し」。

■ 三岸節子さんの絵が好きだ。彼女の書く文章も。花の絵が多い。花など育てることも愛でることもしないくせに、この人の「花」が好きだ。 花よりもいっそう花らしい、花の生命を生まなくては、花の実態をつかんで、画面に定着しなければ、花の作品は生まれま…

「最後の春休み」。

春になると聞きたくなる歌がある。山本潤子さんの歌もその一つ。ユーミンの手がけた曲が少なくないが、曲によってはユーミンよりも山本潤子さんの歌のほうが大人びて、少し艶っぽく胸に滲み込んでくる。このことは、ユーミン本人も認めている。 赤い鳥、ハイ…

Hawaii, Hilo。

ホノルルに着いた翌日、ワイキキの通りで格安航空券を扱う代理店を物色。いちばん安いチケットを手に入れ、午後、ハワイ島・ヒロに飛んだ。飛行時間はわずか数十分。地元の人は買い物かごを持って、バスで移動するみたいに、この路線を使っている。ヒロは、…

一呼吸の今。

〇日 毎日のように、ネグレクトや暴力を受ける子どもたちのニュースが聞こえてくる。仕事で、事件を起した少年や少女に関わったことがあった。多くは幼少期、両親によるネグレクトを経験しており、身体への暴力、あるいは言葉の暴力によってもたらされる過酷…

あっちゃんの入学式。

あっちゃんは一つ上のいとこである。1年生にしてはからだは大き目で、少しいかつい感じはしたが、大人みたいに穏やかな口調で話す、気持ちのやさしい子どもだった。 洋裁職人だった母は、入学のお祝いにとジャケットに半ズボンのスーツ、ワイシャツ、蝶ネク…

「向こう」から来るもの。

〇日 新千歳空港には10時前に着いた。快速エアポートと地下鉄を乗り継ぎ、11:30、札幌市内のカフェでAさんとお会いする。 リュック一つという最小限の荷物で行ったというのに、Aさんが準備していた資料は厚さ10センチくらいのファイルの束。順番に資料の解…

眼は遠くを、足は地に。

〇日 スーパーで1週間分の買い出し。久々に、パイナップル(切り分けされているもの)を買う。 母がまだ元気だったころ、毎週、施設(グループホーム)にもっていったことを思い出す。自分とカミさんと母の分を、5、6切れにしたものをタッパに入れていく。…

「スノーマン」。

毎日眺めているはずなのに、狭い庭のかんばせの移ろいにさえ気づかない。昨日まで雪があり、屋根からの氷柱がタタタと滴になっていたのに、今日は湿り気たっぷりの黒い土がのぞいている。時間はこうして、静かに、速く、雪のように溶けて流れていく。 子ども…

最後の言い訳。

音楽が嫌いな人、というのはおそらくいない。ジャズやクラシックが好きだというと少し高尚に見えることもあるが、そんなことは全くなくて、演歌の好きな人にも品格の高い男や女はたくさんいる。好きな音楽には、その人の還る場所が準備されている。着地点の…

過去を夢見る。

繰り返し見る映画の中に「野いちご」(1957 スウェーデン)がある。監督はイングマール・ベルイマン。「叫びとささやき」に次いで好きな映画だ。 物語は、夢と現実が交わりながら展開する。主人公の老医師イーサクが旅の途中で、老母の家を訪ねる場面があっ…

休日に開く本=佐野洋子/光野桃/山田太一。

洋子さんの「100万回生きたねこ」を初めて読んだのは、40年以上も前のことである。安アパートでの学生生活は貧しかったが、住んでいたのは港の見える丘公園まで徒歩20分の閑静な住宅街。山手の通りもドルフィンも休みの日の散歩コースだった。 しかし、現実…

「西の魔女が死んだ」=魂は成長したがっているのです。

懐かしい感じがする陶器の四角いシンク。調理台にも使える小さめのダイニングテーブル。少し傷んだ木枠とアンティークなガラス窓。ベッド横のランプ台としても使えるナイトテーブル。調理もできるし、暖かな火も楽しめるクックストーブ。畑に広く突き出した…

簡素に、簡素に、さらに簡素に。

「ウォールデン 森の生活 (上) 」ヘンリー・D・ソロー 小学館文庫 今泉吉晴 (翻訳) ■ 「質素な生活こそが、贅沢な生き方」。ソローは、そういって、森の中で思索を続けた。170年以上も前、いまと比べ、モノなどないに等しい時代、思索の日々を記録した「森の…

小さな生活。

〇日 一つの仕事を終えると闇の世界【Rabbit Hole】から抜け出し、現実世界に戻ってくるような気持ちになる。どんなにささいな仕事にだって、物語があって新たな発見がある。仕事の最中はうんざりすることの連続だが、物語から抜け出すと少しさびしい。勝手…

「悲しい」ことは「考える」こと。「考える」ことは「願うこと」。

本棚にある河合隼雄さんの本を数えると31冊。1冊1冊を、丁寧に、繰り返し読んできた。「子どもの本の森へ」は詩人・長田弘さんとの対話集。ここでの長田弘さんは、詩人というより鋭い社会学者みたい。久々に本を開いてみる。途中、随所で「略」あり。 @7…