言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

簡素に、簡素に、さらに簡素に。

「ウォールデン 森の生活 (上) 」ヘンリー・D・ソロー 小学館文庫 今泉吉晴 (翻訳) ■ 「質素な生活こそが、贅沢な生き方」。ソローは、そういって、森の中で思索を続けた。170年以上も前、いまと比べ、モノなどないに等しい時代、思索の日々を記録した「森の…

小さな生活。

〇日 一つの仕事を終えると闇の世界【Rabbit Hole】から抜け出し、現実世界に戻ってくるような気持ちになる。どんなにささいな仕事にだって、物語があって新たな発見がある。仕事の最中はうんざりすることの連続だが、物語から抜け出すと少しさびしい。勝手…

「悲しい」ことは「考える」こと。「考える」ことは「願うこと」。

本棚にある河合隼雄さんの本を数えると31冊。1冊1冊を、丁寧に、繰り返し読んできた。「子どもの本の森へ」は詩人・長田弘さんとの対話集。ここでの長田弘さんは、詩人というより鋭い社会学者みたい。久々に本を開いてみる。途中、随所で「略」あり。 @7…

「やぎさんゆうびん」。

月曜の朝は、いやだった。山羊(やぎ)の乳をもらいに行く日と決まっていたからだ。朝起きてすぐに「ほらっ」と母親に背中を押され、まだ眠い目をこすりながら家を出る。子どもの足で歩いても1、2分のところに八田さんの家があった。週に一度、月曜の朝早…

「78:22の法則」。

資料をめくっているうちに「78:22の法則」という言葉が目に入った。ユダヤ人の法則で「22%の不完全部分は、後回し」というところ。 Never do today what you can put off until tomorrow. (明日に延ばせる事は今日するな) One of these days is none of t…

丁寧と刹那と。

年末、正月、そして、間もなく2月。こんなに早く時間が過ぎるなんて、と日々思うことが増えてきた。毎日を、この一瞬、この刹那を丁寧に生きることが大切って誰かが言っていた。けれど、いったい何をどう丁寧にすればいいのか、わからないまま時だけが過ぎて…

牛乳。

苗字にシマがつくから、シマちゃんとみんなに呼ばれていた。父さんは炭鉱に勤めていた。炭鉱といっても、大きな会社の下請けの下請けみたいなところで、背中や腕に入れ墨をしている人たちがたくさんいるのだと、シマちゃんから何度も聞かされた。みんなより…

根室本線、もしくは函館本線。

北海道の実家に行くたび、帰路は無理をしてでも、鉄道を使ってきた。家から歩いて3分のところに札幌行きの特急バスの停留所もあったけれど、徒歩やタクシーで駅まで行き、1日に数本しかないディーゼル車に乗って帰路につくのである。 父の職場は駅。その駅の…

安住せよ。

ずっと以前の話だが、住宅関係の方々との会合で、食洗機の話題になったことがあった。その場にいたほぼ全員が「採用しない理由がわからない」という。恒常的に水不足の土地でもなく、地方に行くと、世帯当たりの人数が2.0人を切るというのに、果たして必要な…

同居内孤立。

古いメモをめくる。8年前の記録がつづられている。 外出中の出来事だった。クルマの運転中、何度も携帯が鳴った。コンビニの駐車場にクルマを止めて確認。母がお世話になっていたデイサービスからだった。すぐに、かけ直す。電話に出た担当者はいかにも迷惑…

帰郷と帰省。

メモを開く。2015年の記録が目に入る。この年は確かに、年明けから春まで、実家の整理と母の転居に関する手続きで、多忙を極めた。月に2度も北海道を往復することもあった。 母に荷物の整理を頼んでも、まったくといっていいほど進まない。進行の早い認知症…

尽きる言葉。

〇日 ボックオフ。以前より通う頻度は減ったが、この日も30分ほどいて、1冊も買わずに店を出る。芥川賞が発表されたばかりだが、棚には、ここ数年の受賞作がずらりと並ぶ。全て100円。 帰り、大型書店に入る。売れ筋の商品が店頭で置き本になっている。置き…

「月と六ペンス」サマセット・モーム。

ソウルジョブともいえる為事を持っている男なら、一度は、こんな人生に憧れてしまう。画家のゴーギャンをモデルに書かれたとされるが、モーム自身の人生への憧憬が、そこにある。 絵を描くために妻も友人も裏切り、最後はタヒチ島に渡り、ライ病に冒されなが…

「マリカのソファー/バリ夢日記」吉本ばなな。

吉本ばななの本は、40冊以上読んだかもしれない。平易な文章のなかに、光る言葉がいくつもある。生と死、現実と幻想が混在した世界のなかを、ゆっくりと旅をする、そんな楽しみがある。 「ここには何か違う空気がある。むきだしの本物の真実の自分以外はひね…

「問題」と「謎」。

夜中、はっと目が覚める。リビングのソファにある彼の「寝床」を見に行く。弱々しい目が、まだかすかに光っている。 日に日に衰弱していくコロちゃん。ネコである。スーパーの店先に置き去りにされていた。尻尾が折れ曲がった、黄色の眼をした子ネコだった。…

継ぎ目や目地。

寅さんの映画を観ていると、団子屋さんの裏の印刷所の職人をつかまえて「おい、植工(しょっこう)たち!」といった言葉が頻繁に出てくる。妹のさくらさんのご主人も実は植工だった。いまでこそ、オフセット印刷が主流になったが、40年ほど前までは、どこの…

福引き。

子どものころ。欲しくて欲しくてしょうがないけど、買ってもらえなかったもの。レーシングカーのセット。曲がりくねったコースに2台か3台のレーシングカーをリモコンを操作して走らせ競う玩具だ。 お正月に百円札1枚のお年玉しかもらえなかった時代に、15…

末期(まつご)の眼。

〇日 息子が小学生の頃から育ててきたビワがある。買ってきた果実からとった種を鉢に植え、何年もかけて1メートルくらいの背丈にした。元気のよさそうな葉をとり「ビワの葉エキス」を作ってみた。自然食の本に書いてあった。 1.古くてかたくなったビワの葉を…

居場所。

Aさんのお話を聴く。「My chair」という言葉に出合う。欧州の家でよく見かける一人掛けの椅子のことである。ソファやダイニングの椅子より高価なものが多く、家長が座る。「自信を取り戻すための居場所なんです」とAさん。いい言葉だ。 残念ながら「自信を取…

私が後悔するのは。

〇日 午前、八幡宮。ここ数年は、初詣ではなく、年末の参拝。お願いごとはしない。1年を無事に終えることができたことへの感謝。昨年も今年も、たくさんの起伏はあったのだけど、いま、ここに、生きていられることには感謝の気持ちしかない。 墓苑の次に好…

サンタクロースの部屋。

あたたかな、と聞いて、思い出すのは二つの場面。一つは、茶の間の真ん中に置かれた石炭ストーブ。 厳寒期にはマイナス10℃にもなる私の故郷では、11月のはじめから石炭ストーブの火を昼夜絶やすことはなかった。 昼間はストーブの口を大きく開けて空気がたく…

Time was soft there.

ちゃんと本を読めるようになったのは、高校生になってからのことだ。小中を通して、読んだ記憶のある本は「トムソーヤの冒険」1冊だけ。読書とはまるで縁がなく、外で遊んでばかりいる子どもだった。本が好きになったのには、ちゃんと理由があった。遅れ目…

「玄(くろ)」の世界。

初めてカメラを手にしたのは、小5のとき。父が月賦で買ってきた「ミノルタハイマチック7s」だった。レンズはロッコールF1.8/48ミリ。父は買って間もなくカメラに興味がなくなり「おまえにやる」といって、私に自由に使わせた。 まだ白黒フィルムが主流…

檸檬。

〇日 何だろう、この不安感。朝起きて、すぐに、こんな気持ちになることがある。テレビをつけると、ウクライナやガザの映像。子どもたちの泣き叫ぶ顔、太々しい日本の政治家たち。どこかの国の大統領も、わが国の政治家も、誰一人、いい顔、と思える人はいな…

どちらもぜいたくね。

クラシックギターに手にしたのは、フォークギターを購入した2年後のこと。大学でラテン音楽サークルに所属していた私は、先輩の紹介で、3人のミュージシャンを知った。チャーリー・バード、ホセ・フェリシアーノ、長谷川きよし。 電気を通さず、生ギターで奏…

ソウルメイト。

まるで前世でも出会っていたかのような気持ちの結びつきを感じる相手を、ソウルメイトという。天職という言葉があるように、その人の天性に合った職業は、ソウルジョブ。両者とも出会うべくして出会った運命の人、運命の仕事という意味なのだろう。 自分の職…

imago。

〇日 墓園。 この街で、いちばん好きな場所。 いまは亡き人たちと 過ごす時間は、 日常のそれとは少し異なる。 止まっているようで、 何かがかすかに動く気配があって 不幸でも幸福でもなく 哀しいわけでも、うれしいのでもない。 水のような 清冽な宇宙の営…

為(し)事。

ふと目にしたことや耳に飛び込んできた音、あるいはどこからか漂ってくる匂いに、自分のなかに長く眠っていた何かが揺り起こされる瞬間がある。今日、コンビニで「おじさん」という子どもの声に、振り向く。自分ではなく、ほかの誰かを呼んでいた。おじさん…

わからない、ということ。

〇日 04時30分起床、 準備を整え07時過ぎの新幹線で福島県A市。 3.11以降、原発事故による被災者たちが 補償金などの目途がついた順から、 内陸への移転を始めた。 同市エリアのハウスメーカーは数年間、 前年対比300%のバブル状態が続いたが 地元工務店は…

あきらめ。

〇日 気がつけば、11月も後半。大切な人との別れ、その別れが人との再会を導いてくれるなど、そんなことの繰り返し。思い付きで夕刻の飛行機で遠出をしたり、深夜、懐かしい場所を徘徊したり、意味不明のこともしたい放題。ただ、どんな街の、どんな人に会っ…