言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

2023-01-01から1年間の記事一覧

末期(まつご)の眼。

〇日 息子が小学生の頃から育ててきたビワがある。買ってきた果実からとった種を鉢に植え、何年もかけて1メートルくらいの背丈にした。元気のよさそうな葉をとり「ビワの葉エキス」を作ってみた。自然食の本に書いてあった。 1.古くてかたくなったビワの葉を…

居場所。

Aさんのお話を聴く。「My chair」という言葉に出合う。欧州の家でよく見かける一人掛けの椅子のことである。ソファやダイニングの椅子より高価なものが多く、家長が座る。「自信を取り戻すための居場所なんです」とAさん。いい言葉だ。 残念ながら「自信を取…

私が後悔するのは。

〇日 午前、八幡宮。ここ数年は、初詣ではなく、年末の参拝。お願いごとはしない。1年を無事に終えることができたことへの感謝。昨年も今年も、たくさんの起伏はあったのだけど、いま、ここに、生きていられることには感謝の気持ちしかない。 墓苑の次に好…

サンタクロースの部屋。

あたたかな、と聞いて、思い出すのは二つの場面。一つは、茶の間の真ん中に置かれた石炭ストーブ。 厳寒期にはマイナス10℃にもなる私の故郷では、11月のはじめから石炭ストーブの火を昼夜絶やすことはなかった。 昼間はストーブの口を大きく開けて空気がたく…

Time was soft there.

ちゃんと本を読めるようになったのは、高校生になってからのことだ。小中を通して、読んだ記憶のある本は「トムソーヤの冒険」1冊だけ。読書とはまるで縁がなく、外で遊んでばかりいる子どもだった。本が好きになったのには、ちゃんと理由があった。遅れ目…

「玄(くろ)」の世界。

初めてカメラを手にしたのは、小5のとき。父が月賦で買ってきた「ミノルタハイマチック7s」だった。レンズはロッコールF1.8/48ミリ。父は買って間もなくカメラに興味がなくなり「おまえにやる」といって、私に自由に使わせた。 まだ白黒フィルムが主流…

檸檬。

〇日 何だろう、この不安感。朝起きて、すぐに、こんな気持ちになることがある。テレビをつけると、ウクライナやガザの映像。子どもたちの泣き叫ぶ顔、太々しい日本の政治家たち。どこかの国の大統領も、わが国の政治家も、誰一人、いい顔、と思える人はいな…

どちらもぜいたくね。

クラシックギターに手にしたのは、フォークギターを購入した2年後のこと。大学でラテン音楽サークルに所属していた私は、先輩の紹介で、3人のミュージシャンを知った。チャーリー・バード、ホセ・フェリシアーノ、長谷川きよし。 電気を通さず、生ギターで奏…

ソウルメイト。

まるで前世でも出会っていたかのような気持ちの結びつきを感じる相手を、ソウルメイトという。天職という言葉があるように、その人の天性に合った職業は、ソウルジョブ。両者とも出会うべくして出会った運命の人、運命の仕事という意味なのだろう。 自分の職…

imago。

〇日 墓園。 この街で、いちばん好きな場所。 いまは亡き人たちと 過ごす時間は、 日常のそれとは少し異なる。 止まっているようで、 何かがかすかに動く気配があって 不幸でも幸福でもなく 哀しいわけでも、うれしいのでもない。 水のような 清冽な宇宙の営…

為(し)事。

ふと目にしたことや耳に飛び込んできた音、あるいはどこからか漂ってくる匂いに、自分のなかに長く眠っていた何かが揺り起こされる瞬間がある。今日、コンビニで「おじさん」という子どもの声に、振り向く。自分ではなく、ほかの誰かを呼んでいた。おじさん…

わからない、ということ。

〇日 04時30分起床、 準備を整え07時過ぎの新幹線で福島県A市。 3.11以降、原発事故による被災者たちが 補償金などの目途がついた順から、 内陸への移転を始めた。 同市エリアのハウスメーカーは数年間、 前年対比300%のバブル状態が続いたが 地元工務店は…

あきらめ。

〇日 気がつけば、11月も後半。大切な人との別れ、その別れが人との再会を導いてくれるなど、そんなことの繰り返し。思い付きで夕刻の飛行機で遠出をしたり、深夜、懐かしい場所を徘徊したり、意味不明のこともしたい放題。ただ、どんな街の、どんな人に会っ…

祈ることしかできない。

今年も、ぽつりぽつりと、喪中はがきが届く季節。 自分も、先週、出したばかり。 ネットからサンプルを見つけ、 事務所でさくっとプリントして出した。 昨年は義父、今年は母。 きつかった。 いまもなお、何をするにも力が出ない。 心ここにあらず、 とはこ…

小豆。

乾涸らびたような薄い煤色の細い鞘を親指の爪を使って縦に割ると、漆のような深い光沢を秘めた、少し縦長の豆が顔を出す。小豆である。「こんなふうになってるの、おまえ、知ってたか」「いや」携帯(当時 ガラケー)で写真を撮ってみた。いまさっき、母が庭…

陰を描けば。

ロンドン・パリ。2都市に絞って、いつものリュックに着替えと撮影道具を詰め込み、2週間の旅を決行したのは、確か11月のこと。二度目のヨーロッパであった。A社からカレンダーの制作を頼まれ、毎年この時期になると、海外に撮影の足を延ばしていた。潤沢な…

変わらなくてもいいもの。

〇日 今週はいつになく、たくさんの人の話を聴いた。たくさんといっても、6人だけど、あたらめて、誰もが固有の物語をもっていることに気づく。その物語とは、最初からあったものではなく、その人自身から作り出されたもの。お母さんを亡くしたある人は、お…

映画「最初の人間」「愛、アムール」「偽りなき者」。

〇日 ライブラリー(以下同)から、古い作品ばかりを取り出して、見ている。この日の午前は「最初の人間」。ノーベル文学賞作家アルベール・カミュの遺稿で、没後30年以上を経て発見され、未完のまま1994年に出版された「最初の人間」を映画化。生まれ育った…

フジおじちゃんとフジおじちゃんのおばさん。

フジおじちゃん。名前をフジオというので、そう呼んでいた。父の2つの上の兄である。若いときに結核に罹って、何度も手術を繰り返し、最後の手術では肋骨が6本も切られてしまった。それでも退院して、少し体調がよくなると酒もタバコもやった。奥さんは、…

ホームの向こう。

駅舎はすっかり以前の面影をなくしているが、ホームも跨線橋もほぼ50年前のまま。跨線橋の奥に見える小さな建物が父の「職場」だった。昔は、ホームがこの建物まで続いていたが、いつの間にか、途中でちょん切られたようだ。 鉄道員だった父の詳しい仕事はわ…

薪割りの日。

いまごろの季節になると、私の生まれた北海道では、どこの家でもストーブに火が入り始める。もう、何十年も前のことだ。近所の家の庭では、薪をさらに細く刻んだたきつけ割りが始まり、それらを物置や家の壁に沿って屋根近くにまで積み上げていく仕事で忙し…

S子さんへの手紙。

今日、印刷会社から見本誌が1冊だけ届きました。20ページには、お母さんの原稿「大切なものは、目に見えないもの」と、あなたの描いたイラストがサイン入りで載っています。加古隆さんの帽子、ですね。いつもは毛糸みたいなふんわりしたタッチなのに、今回…

天体望遠。

暑さが続くと、涼し気な秋の夜が懐かしい。雨が続くと、月が恋しくなる。夜の縁側に座って月を仰ぎ、虫たちの声を聴くのは、ずいぶん昔からのお気に入り。それでも不思議なもので、子どもの頃、夜空でてらてらと光っていた月よりも、大人になったいまのそれ…

二つの祖国。

何かに取り憑かれたかのように、単身、韓国・A市にあるB施設にうかがったのは、コスモスが咲き始めた、ちょうどいまごろの季節だった。息子が1歳になったばかりで「しばらく外国に行って来るよ」といったら、ふだんは大人しい6歳の娘が、突如、近所に聞こ…

ひとときを咲く。

今年に入って何度も繰り返した大掃除。10年以上前の仕事(作品とは思っていない)や写真(ポジフィルム)の大半を捨てた。 名刺も5年おきに溜まったものをその都度確認し、もう絶対に会わないであろう人のは捨てる。5年前に捨てた名刺は2300枚。ほぼ100枚ご…

異文化=border。

夕刻、ピンポーン。ドアを開けると、D社のE子さん。「どうぞ、お茶っこでも」としばしの喫茶去。海外留学の経験を持つE子さんの話を聴くのはいつも楽しみ。今日は、アラブやヘブライの文化と日本の文化との対比について、平和、戦争への価値観の相違などの話…

木漏れ日。

晴天。朝、目覚めて、今日は、森に行こうと決める。何の意味もなく、行きたくなった。自宅からクルマで15分ほどのところにある、森林公園。とてつもなく広いわけでもなく、こじんまりし過ぎてもいない。子どもたちがまだ幼いころ、水筒を持って出掛け、しば…

ネオテニー。

〇日 Aさんたちからお誘いを受けて、18時から食事会。 ほとんどが30代、40代。 席を見渡すと、自分がもっとも年長であることに気づく。 この歳になって 声をかけてくれたり、訪ねて来てくれる人の多いことは、 有り難いことだ。 少しは人にあたたかく、やさ…

小さな生活。

軽自動車に乗り換えて8年になる。以前は2000cc・4WDのSUVだったが、息子に高値で売り付けた。差額で48回払い、月々の返済は数千円。税金、燃費、保険等を合わせ、以前より維持費は年間85000円以上安くなった。免許をとって最初に買ったクルマは中古のホンダ…

「これまで」と「これから」。

これまで3人の韓国人と2人の中国人を我が家で迎え入れたことがあった。 一人目の韓国からの客人が帰国したあとのことだ。その後一通の手紙もなく、少し寂しい思いをした。翌年訪れた二人目の韓国人の客人にそれとなく心中を話すと、彼女はこういった。「日…