言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

S子さんへの手紙。

今日、印刷会社から見本誌が1冊だけ届きました。20ページには、お母さんの原稿「大切なものは、目に見えないもの」と、あなたの描いたイラストがサイン入りで載っています。加古隆さんの帽子、ですね。いつもは毛糸みたいなふんわりしたタッチなのに、今回は少し力強い線に見えました。

 

8月の初旬までメールで近況を知らせてくれたり、原稿についてやり取りをしていたのにね。いつも家族のことや、私の健康のことを気遣ってくれる思いやりのある文面でした。にもかかわらず、事務的な応対しかできなかったことを後悔しています。ごめんなさい。


あのあとすぐ、あなたは家で倒れ、数日間、病院で眠りについたまま旅立っていきました。お母さんから電話をいただき、夜の高速を飛ばして病床に駆けつけました。ご主人が「ダイシロさんが来てくれたんだぞ、聞こえるか」と叫んでも、私が耳元で「まだお父さんのところに行っちゃだめだ」と叫んでも、あなたは静かに眠ったままでした。横顔、お父さんによく似ているなあと、へんに冷静な自分もいました。いまとなっては、旅立つ前のあのしばしの時間が、幾人か親しい人たちとのお別れの時間だったのかと思えてなりません。


明日、お母さん宛てに本を送ります。いつもより2冊多く送ります。ご主人と息子さんの分です。お母さんやご主人がどんな気持ちで、このページを開くのかを考えると悲しくなりますが、短い手紙を添えて、いつも通り宅配便で送ることにします。私のへたくそな字は読みづらいと思いますが、お母さんはやさしいので、許してくれると思います。

お父さんとは、もう会えましたか。あなたのことを、誰よりもかわいがっていたお父さんだものね。きっと、あなたの歩こうとする道程のすぐ側まで迎えに来たんだろうなと思っています。
ちょっと早すぎて、呆れていたのではありませんか。積もる話は、たくさんあるはず。
いっぱい、いっぱい話をしなさい。自分が安心できるまで、お父さんに甘えなさい。


お母さんには、これからも原稿を頼むつもりです。イラストはどうしようか困っていますが、お母さんと相談することにします。

今朝の気温は20℃もなく、寒いくらいでした。そちらはどうですか。カゼなどひかぬように気をつけること。

ありがとう。また、ね。

 

 


2007/09/18の記事を記録として転載しています。