言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

客観なんかない。

図書館。インターネットが普及する前までは、資料探しのためだけに週に3、4度は通いつめていた。 借りられる本は5冊までだが、用事があるのは、ほとんどが一般書棚にはなく、資料室に納められた「貸し出し不可」の本ばかり。資料をデスクに山積みしては、…

ありがたき不思議。

○日去年1年の郵便物と、この10年間の名刺を整理する。郵便物はゴミ袋1つくらい。名刺は2枚の大きな紙封筒に分けて入れ、ガムテープで封をして捨てる。事業ごみなので、他のゴミと一緒に専門の業者に運び込まなければならない。名刺の大掃除は4度目。以前…

If you build it───

週末。映画館で上映中の作品は見る気がせず、ライブラリーの映画を観る。土曜は「カッコーの巣の上で」、日曜は「フィールド・オブ・ドリームス」。どちらも、4、5回繰り返して観ている映画だ。 前者は精神病院が舞台。彼らが脱走して船に乗り、海に出るシ…

【にあんちゃん】=貧しさのゆくえ。

● 昔、映画は観たが、本は手元になかった。 何冊か取り寄せ、いまは本棚に。映画は日本でただ一人、 カンヌ映画祭で最高賞を2度受賞した 今村昌平が監督している。 昭和28年、佐賀県の炭鉱町。幼くして(朝鮮半島出身の)両親を亡くした兄妹4名が 貧しさの…

スナフキンとユルスナールの靴。

スナフキンが好きだ。自由と音楽を愛し、世界中を旅する吟遊詩人。ハーモニカと古ぼけた帽子がトレードマークで、人にもものにも執着せず、秋になると一人、ムーミン谷を去っていく。その姿に、ずっと憧れてきた。 靴も服も、誰かからもらったお古。ムーミン…

10年もしくは14年。

以前、EXILEのATSUSHIさんが お昼のテレビに出演したときのメモが残っている。 願いごとの話だった。 どうせ、何かを願うのなら、 他人のことであること いいことであること 10年以上(思い)続けること という条件をつけてみる。 いいお話だ。 きのう再読し…

Sauve qui peut.

夕刻、建築家のAさんとお会いする。 3年ぶりの再会。 今回も、長い時間、お話をうかがった。 何年か前のことである。 深夜の別れ際。 Aさんは、握手の手を差し出しながら 「Sauve qui peut」と呟いた。 仏語で「そーう゛・き・ぷ」と発音するのだそうだ。 …

ラビットホール

「Rabbit hole」(ウサギの穴)とは、 「不思議の国のアリス」でウサギを追いかけて アリスが落ちてしまった穴のこと。 幼い息子を事故で失った夫婦は ある日突然、 不思議の国に迷い込んでしまったアリスのように、 以前とは全く異なる現実で生きることを …

必ず『それ』はやってくる(サルガド)。

経済学の博士号を持つ学者であり、 報道写真家でもある。 ユージン・スミスの写真が事実の裏側を捉え、 真実の種を開花させようとする写真であるなら この人の写真は、どんな悲惨な状況も 絵画のような美しさで切り取り、 そこに「光」を散りばめた、アート…

新聞配達

鉄道官舎にいる頃のことだから、まだ3歳か4歳のときのことだと思う。 ある朝、父の怒鳴り声で目が覚めた。子どもながらに、また母との諍いか…と、あきらめ半分、悲しい気持ちで起きあがると父と母が寝間着のまま、窓に向かって立っていた。 窓の外には中学…

人と祈りのエネルギー

瀬戸内寂聴さんと 玄侑宗久さんの対談集『あの世 この世』(新潮文庫) のなかに面白い話のやり取りがある。 人は死んでもエネルギーになる、 という話である。 人は亡くなった瞬間、 体重が何グラムか減るのだそうだ。 アインシュタインの 「この宇宙の中の…

新しいほうへ

〇日 1400。A子さんと市内のカフェでお会いする。 「見せたかったのです」 最初に差し出されたのは家族写真。 写真館で毎年、撮っているという。 アルバムに入った大判の写真だった。 もう一つは手紙。 恩師からもらったものだそう。 丁寧なペン字で便箋何枚…

巡礼

紙にペンで書く。 当たり前のことだが、 この30年、 仕事以外では滅多にしてこなかった。 最近は意識して、 手書きをする機会を増やしている。 予定はA4コピー用紙を半分にしたヤレ紙にメモ。 テレビや読書で気になったことも ヤレ紙にメモし、後日、 3号…

見えるもの、見えないもの

散歩を始めて10日ほどになる。 自分の人生で、散歩をする場面など、2週間前まで 想像すらしなかった。 動機は、歩いてみたくなったから。 春だから。 夕刻、散歩の途中で 白い杖を持った視覚障がい者が 道に迷っている様子。 声をかける。 何度かバスで来た…

やさしさの定義

書きっぱなしで、 あとは編集者や校正の専門家にお任せ、 といった仕事ができたら どんなに楽だろう。 何百回も、何千回も、そう思ってきた。 誤植の一つや二つや三つ、何てことない。 誤植があっても「いい本(文)だったね」 といわれるような 本づくり(…

いい人生であったと

Aさんと初めて会ったのは、30年以上も前のことである。 家のことに関わり始め、 右も左もわからずに、寒くない家、暑くない家、 限りなくゼロエネルギーに近い家、 弱い身体になってもなお、 介護も看取りもできる家の普及を願って 取材、調査をはじめた。 …

育てた覚えなんかない

父と二人きりで飲み屋で飲んだことがあった。 実家のある町の「親不孝通り」と呼ばれる、駅前通りから2本、細い道を入った裏通り。 確か大学3年の春休みの頃で、当時はまだ赤や紫のネオンが通りに寂しく揺らめいてさびれた店と店の間の闇にはそこにしかない…

沈黙という母胎

〇日 近道をしようとナビを使うが 駅裏は開発が進んで、古いナビは役に立たない。 住宅地に迷い込んだ。 行き止まりにあたり、バックをしようと窓を開けた。 どこかの家からオルガンの音。 いまどき珍しいなと思って、クルマを止めて耳を澄ます。 子どもだろ…

マコちゃんの眼

私が生まれた貧相な鉄道官舎も、4歳のときに父が建てた小さな家もそこには2階というものがなく、たとえ一部屋でも、2階のある家に住むのがずっと夢だった。 だから、祖父母と叔父一家、叔母のマコちゃんが2階のある長屋に引っ越したのは、うれしい出来事…

祈る人

〇日 A市でセミナー。 終了後、一組のご夫妻に声をかけられた。奥様がにっこり笑って「以前、お世話になりました」。韓国人のBさんとご主人であった。縁あって、韓国からこの町に嫁いだBさんはたどたどしい日本語を駆使しながら一生懸命に 主婦として、住民…

ファドの街

ヨーロッパでいちばん好きな街を、と問われれば迷いなくリスボンと答える。黒い髪と黒い瞳、そして日本人とほぼ同じくらいさほど背丈も高くないこの国の人々は、語り口も静かで、性格も穏やか。首都といってもその街なかは、ヨーロッパのあらゆる首都のなか…

横浜、あのとき

学生時代の4年間を過ごした街。大学4年になってからは、親からの仕送りは遠慮し、それまで週3日のアルバイトを週に6日に変更した。 最後のアルバイト先は山下埠頭だった。山下公園ある氷川丸の裏手にある埠頭の倉庫で輸出用のレントゲンフィルムを船に乗…

春の父

12月から厳寒の日が延々とつづく北海道でも、3月に入ると急に陽射しがやわらかくなってそこらの雪もパウダーから湿り気を含んだベタ雪へと変わる。それまで飽きるほど眺めてきた鉛色の空が淡いパステルの色彩をほんの少しだけ湛え、空気の質感までがとろり…

ソウルジョブ

〇日 記憶に違いがなければ「さとうきび畑」の歌を 初めて聞いたのは、 森山良子ではなく「ちあきなおみ」だった。 NHK「みんなのうた」で聴いた気がするが、自信はない。 ざわわ・ざわわ・ざわわ──。 息と声に感情をねっとりと絡ませた はじめのそのフレー…