言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

If you build it───

週末。映画館で上映中の作品は見る気がせず、ライブラリーの映画を観る。土曜は「カッコーの巣の上で」、日曜は「フィールド・オブ・ドリームス」。どちらも、4、5回繰り返して観ている映画だ。

 

 

 

前者は精神病院が舞台。彼らが脱走して船に乗り、海に出るシーンが印象深い。
舵取りを頼まれた患者は上手にそれができず、船は同じところをグルグルグルグルと旋回してしまう。

自由を目指しながらも、実は同じ場所を回っているに過ぎない。はかない人生を象徴しているかのようである。

仲間に励まされながら女性を抱いた青年が、看護師から「お母さんにいいつける」といわれ、自殺してしまうシーンももの哀しい。何という、精神の純粋さ。その精神が精神病院で生きるしかない、という矛盾。


最後、インディアンの患者が大好きだった主人公を殺してしまう。フェンスを破り、亡骸を抱いて病院を出ていく場面は、肉体の死と魂の転生を物語っているかのようだ。

 

ジャック・ニコルソンは、これでもかというほど現代アメリカ人を体現する。が、映画の根底に流れるのは、先住民たちのプリミティブな死生観と強烈な文明批判、弱者と強者の徹底した対比、差別や闘いの愚劣さ。

 

 

 



良質な本と同じで、いい映画は迷ったときに、いくつもの生きるヒントを提示してくれる。「フィールド・オブ・ドリームス」で出てくるこの言葉は、孤独で不安の最中にあったときの、自分の背中を押してくれた言葉でもあった。

If you build it , he will come.

破産の危機に直面しながらも、主人公は畑を潰して野球場をつくり、そこで奇跡と巡り会う。「奇跡」は父の生前に果たせなかった、父子の関係の修復であり、過去を遡ってまでもそれを果たすことで「生き直すこと」ができる、という人生の可能性の提示でもある。

 

比べてみるのもおこがましいが、これまでいくつもの人生の危機があった。しかし、結果として「he」はさまざまな姿を借りて、私たちの前に表れ、数え切れないほどの奇跡を与えてくれた。

人は映画のストーリーに泣くのではなく、自分を物語に重ねて泣くのである。

 

奇跡の種はIf you build it──という問いかけの言葉に、そっと潜んでいる。「 build」は「創造する」というより「継続」であったかもしれない。それでも「あきらめなかった」自分を振り返り、誰にも気づかれぬよう、自分のためだけに流す涙があっていい。