言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

2023-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ギン映のこと。

ギン映という古びた小さな映画館があった。東映はギン映に比べると少しは小ぎれいだったが、ギン映はどこもかしこもションベン臭くて、この便所には、外から子どもが入れるくらいの穴まで開いていた。映画好きの父に連れられ、何度も行ったが、映画は好きで…

簡潔・省略・余韻。

〇日 きな臭いニュースばかり。今日は、動かないこと。目標は、この一点に絞る。努める。早朝から遠藤周作「深い河」を読む。348ページ。再再読。生い立ちや社会的な立場、背負っているものが異なる人々が、インドのガンジス川を目指す。 「信じられるのは、…

馬。

小学校までの通学路は、車一台がやっと通れるほどの道幅で、かといってまだ車の姿はほとんどなく、夏は馬車、冬は馬橇がたまにそこを通るだけだった。低学年の子どもたちは、荷を引いた馬が来ると「おじさん、いいかい」と一声かけて荷台に飛び乗り、馬の進…

針箱とカッコウ。

母は、北海道の美瑛という町の農家に生まれた。貧しさゆえか「農家の仕事だけはいやだ」といって、尋常高等小学校を卒業後、自転車で3里(12キロ)も離れた町の洋裁学校に通い、技術を身に付けたという。私たちの子どもの頃はまだ、既製服の種類は多くはな…

グラン・トリノ。

クリント・イーストウッド監督・主演。この作品が彼の遺作になるのではないかと思って、録画は大事にしてあった。いまでも、時折観ると、毎回、映画の展開とはまた違った感慨が押し寄せる。人にも、神にも、家族にも心を開くことのなかった孤高の老人が末期…

ドブを越える。

駅の並びにあった鉄道官舎で産湯を浸かり、4歳まで過ごした。長屋の裏、わずか5、6メートル先には線路。蒸気機関車が数分おきに真っ黒な煙を吐きながら行き来していた時代である。線路の向こう側、ちょうどズリ山の麓あたりに広場があった。官舎の子ども…

永訣。

1冊の本が上梓された。自費出版なので書店に並べることはせず、関係者への配布のみとした。4年近くもがんと闘い、30代の若さで夭逝したA子さんの軌跡を、母親のB子さんがが克明に記録していた。B子さんとは、A子さんの闘病中から関東圏での仕事でご一緒さ…