言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

2023-06-01から1ヶ月間の記事一覧

失っても、なお───「ねずみ女房」。

ありきたりの日常のなかで「ねずみ女房」は何がほしいのかわかりません。何かが足りないのです。そんなある日、ハトと出会い、外の世界のことを知ります。そして、ハトとの別れの日「ねずみ女房」は初めて星の美しさを知りました。私たちが大人になっていく…

「少年と自転車」。

。毎週金曜日、市内の映画館のスケジュールをチェックするが、最近、観たいと思える作品になかなか出会えない。雨の日は特に外出するのがおっくうで、自分のライブラリーから好きなものを選んで観ることが増えた。 父親に捨てられ、児童養護施設に暮らす11歳…

ラベンダー咲く家。

「ラベンダーが咲き始めました。ぜひ、お越しください」A子さんから届いたお便りに誘われ、B町の工房を訪れたのは、何年前のことだったろう。確か、ご主人のCさんが亡くなったあとのこと。蛇行する川に寄り添うように曲がりくねった細い道を、行きも帰りも…

愛別離苦。

この四半世紀、おつきあいいただいているA先生の本、再読。誰より多忙な先生だが、これまで打ち合わせや原稿のやり取りで約束が守られなかったことは一度もなかった。人に寄り添う、人を敬う――を医療の現場のみならず、あらゆる場面で実践されてきた。 家で…

大工さん。

サハリンで生まれ育った祖父は大工をしながら時に漁師をし、父を含む8人の子どもを育てた。ほんとうは、絵描きになりたかったそうだが、絵だけでは食うことなどままならない時代。大工として働きながら、時間を見つけてはカンバス、そして襖や屏風にまで絵…

なにごとにもときあり。

● ようやく揃ったゲラをパラパラとめくる。見出しの甘さ、写真の歪曲、デザインのほころび。厚さ2センチほどのゲラの束を、ジャリッと真ん中から引き裂いてしまいたい衝動にかられる。ほんとうの詰めは、これから。 ──綿密に 見れば見る程 新事実。 新事実 …

余白と情念。

● 注文していた歌人の河野裕子さん著「桜花の記憶」(中央公論新社)が届く。友人のE子さんからのメールで、どうしても読みたくなった。 離れてみて、初めて見えてくる風景というものがある。 そしてその風景は、おそらく風土の本質そのものであるのだろう。…

悲しい歌。

夜。何も観たい番組がないので、ライブラリーにあった昔の尾崎豊の録画(NHK「SONGS」)を観る。この人の番組はドキュメンタリーを含めて何度も観て、何本も録画もあるのだが、どれも観終わると、ただただ悲しくなる。何より悲しいのは、この人の歌にあるよ…

無用の苦。

今日、買い物に行くときのこと。交差点向こうの歩道にぺたりと座って、声を上げて泣いている男性がいた。 年は50代くらい。よく見ると、腕のなかに犬がいる。クルマにはねられたらしく、虫の息の犬を抱きしめながら、懸命に名前を呼んでいる。 時折、腕で涙…

遺言。

きのうの午前。ちんたらとデスクに向かっていたら、ピンポーン。平日なのに誰かしらとドアを開けると、Aさんが立っていた。いつものように、ちょっぴりはにかんだ笑みを浮かべて。「突然、すまん」というAさんを「まあ、お茶っこでも」と狭い仕事場に誘い、…

10の質問。

NHK/BS2(現BSプレミアム)で「アクターズ・スタジオ・インタビュー」という番組があった(原題:INSIDE THE ACTORS STUDIO)。もう17年くらい前の話だ。 ACTORS STUDIOといえば、ジェームズ・ディーンやマーロン・ブランドなど、数々の名優たちが演技を磨い…

二・五人称。

● 午前、デザイナーのA子さんのアトリエで打ち合わせ。本のページ割について「全部、お任せします」。わかりました、といって打ち合わせは終了。この間、わずか3分。 お茶をいだたきながら、ふとアトリエの隅に目をやる。描きかけだったパネルの作品が逆さに…

やり残したことは。

〇日 夜中に目が覚めることが増えて、困っている。深夜の居間に一人でいると、ネコがすっと膝にのってくる。どうしたの、とも尋ねることなく、そのまま膝のうえで寝てしまう。 深夜のラジオから流れてきた「オワリはじまり」。懐かしい。イントロだけで、ブ…