言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

「少年と自転車」。

。毎週金曜日、市内の映画館のスケジュールをチェックするが、最近、観たいと思える作品になかなか出会えない。雨の日は特に外出するのがおっくうで、自分のライブラリーから好きなものを選んで観ることが増えた。



父親に捨てられ、児童養護施設に暮らす11歳のシリルの願いは、再び父親と暮らすことだ。その父親は金に困り、シリルの自転車まで売り払っていた。

 

ある日、シリルは美容院を営むサマンサと出会う。サマンサはシリルの自転車を探し出して施設に届ける。

 

シリルは里子として、週末を彼女と過ごすようになり、やがて、サマンサとともに父を捜し当てる。が、その父親からは「二度と会いに来るな」といわれてしまう。


信じるものを失い、シリルは犯罪にまで手を染めてしまう。けなげにも、強盗で奪ったお金を父親に届けるが、その父親からは「俺をブタ箱に入れるつもりか」と突き返される。

 

半狂乱になったシリルを、必死で受け止めようとするサマンサ。シリルはそのサマンサまでも傷つけてしまう。しかし、そのとき、シリルは初めて他者に心を開くことの意味を知る。


終盤、サマンサと一緒に自転車で走るシーンが好きだ。シリルは自転車を交換しようといい、自転車の大きさ、ギアの違いで大人の立ち位置を学ぶ。少しだけ成長できたという象徴的な場面でもある。

 

サマンサに心を許していくシリルだが、大好きなその自転車は、父親に買ってもらったものである。誰にだって、人生や時間、親と子の関係さえも不条理に思えることがある。努力しただけ、何かが返ってくるとは限らないらしい。シリルもサマンサも、結局は互いに埋めることのできない溝を感じながら、それを受容し合って前を向いて歩いていく。

 


手持ちカメラを多用し、音楽も最小限。どの場面も少なめの言葉で、淡々と描かれるのは監督のダルデンヌ兄弟がドキュメンタリーの出身だからだろう。物語は「施設に預けられた少年が、親が迎えにくるのを何年間も屋根に登って待っていた」という日本の実話を元に作られた。


10年以上も前の映画だが、いつまでも大切にしたい作品の一つ。自転車もただのお散歩も、誰かと一緒に風を感じられたら、すてきなことだ。




※「少年と自転車
2011年/ベルギー=フランス=/87分/ビスタ/カラー
監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演:セシル・ドゥ・フランス/トマ・ドレ/ジェレミー・レニエ

2011年カンヌ国際映画祭審査員特別大賞受賞。