言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

無用の苦。

今日、買い物に行くときのこと。交差点向こうの歩道にぺたりと座って、声を上げて泣いている男性がいた。

 

年は50代くらい。よく見ると、腕のなかに犬がいる。クルマにはねられたらしく、虫の息の犬を抱きしめながら、懸命に名前を呼んでいる。

 

時折、腕で涙を拭いおーん、おーんと号泣するその声は、周囲にも響きわたっていた。

 

間もなくパトカーが来て、警官が男性とその犬を建物の陰へと誘導していった。異様な雰囲気に驚いて通行人の誰かが通報したのだろう。

 

 

日本人は、西洋人と比べてよく泣く民族といわれる。それだけ、警戒心が薄く、他者に対して、安心して自分を開くことのできる証拠なのかもしれない。

 

男は人前で泣くもんじゃない、とはよくいわれるが、人前で泣くことのできる人の実直さを尊敬する。誠実さを信じる。泣かないことより、泣けることほうが強いのではないか。

 

苦しみに耐え抜くことは美徳ではない。忍耐も苦労も限度を越すと、精神が破壊されてしまうからだ。限度を越した忍苦を抱えた人は自分と同量の忍苦を、無意識のうちに他者に求めてしまういこともある。生きている人には平等に「無用の苦」というものがあるのだと思う。