夜中、はっと目が覚める。リビングのソファにある彼の「寝床」を見に行く。弱々しい目が、まだかすかに光っている。
日に日に衰弱していくコロちゃん。ネコである。スーパーの店先に置き去りにされていた。尻尾が折れ曲がった、黄色の眼をした子ネコだった。抱えると、ぜんまい仕掛けのおもちゃみたいに、カタカタと震えていた。
日に数回、スポイトで餌を与え、水分は点滴で補給。2日前まで、まだヨロヨロと歩いていたが、もう動けない。首を上げるのも億劫そうだ。
あの日から、8年が経った。
一つの生命が消える。こんな時間、ついさっきまでの、この瞬間までも、慈しみたくなる。人間、勝手なものだ。まだ、手を伸ばせば、彼がいることの安心と奇跡を感じていた。彼との18年は、振り返れば、あっという間。光のようだった。
わからないものには二つの種類がある。「問題」は、知識や技術を積み重ねていけばやがて解決されるが「謎」は、いつまで経っても解決されることがない。わからない、わからないと、闇のなかで、のたうち回るしか術がない。
歳を重ね、わかるようになったこと、割り切れるものが増えてきたのは、諦めることが上手になっただけのことだ。彼らは、どこに向かって旅立ち、彼岸の地に辿り着いた後は、どうしているのか。解答は得られない。世界中、どこに行っても、面影すら見つけられないことに愕然とする。
繰り返し、自分に、彼に、語りかけていた、あの時間。「大丈夫。また会えるから」。生命には終わりがあるかもしれないが、思いはきっと、時間も距離も超えていく。と、信じていたが、この思いすら実は揺れっぱなしなのだった。
生、あるいは死。分けられないものを、無理に分けた途端に消え去るものを「魂」というのですよ、と誰かがいっていた。
合掌。