言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

「月と六ペンス」サマセット・モーム。

 

ソウルジョブともいえる為事を持っている男なら、一度は、こんな人生に憧れてしまう。画家のゴーギャンをモデルに書かれたとされるが、モーム自身の人生への憧憬が、そこにある。

 

絵を描くために妻も友人も裏切り、最後はタヒチ島に渡り、ライ病に冒されながら絵を描き続け、同島で死ぬ男の物語。

 

あのストリックランドを捉えていた情熱は、いわば美の創造という情熱だった。それは彼に一刻の平安を与えない。絶えまなくあちこち揺すぶりつづけていたのだ。いわば神のようなノスタルジアに付き纏われた、永遠の巡礼者だったとでもいおうか。彼の内なる美の鬼は、冷酷無比だった。

 

友人の一人称という視点で書かれており、文章は平明で読みやすい。題名の「月」は夢、「六ペンス」は現実を意味するとされる。モームの本は何冊か読んだが、メモをとった言葉がいくつかあった。

 

私はいつも人々に興味を持ってきたが、

彼らを好きになったためしはない。

I've always been interested in people,

but I've never liked them.

 

人生とは面白いものだ。何かひとつを手放したら、

それよりずっといいものがやってくる。

 

バカのように生きてみたい。みんな、そう思っている。だから、歳をとってしまうと、だんだんと、細くしぼんで、寂しがり屋にもなる。ほんとうは、いくつになっても内奥には、きらきら輝く夢があるはずだ。

 

いま、手放すべきこと。そのことを考え始めるだけで、この本を読む価値があるのかもしれない。

 

※●●年の読書メモから。