言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

「すばらしい季節」。

絵本作家として活躍し、92歳で亡くなるまで自然に寄り添う生活を慈しんだターシャ・テューダー

 

まるで絵本の世界に迷い込んだような18世紀風のコテージや広大な庭は、本や映画などですっかり有名になりました。

 

女手ひとつで4人の子供を育てあげ、その後は一人で「思う通りに生きてきた」と語るその人生の軌跡は、いまも多くのことを教えてくれます。

 

作・絵: ターシャ・テューダー 

 訳: 末盛千枝子 (現代企画室)

 

 

 

「すばらしい季節」は1966年、ターシャ50歳の頃の作品です。

 

当時のアメリカは、ベトナム戦争に介入し始めたものの、いまと同様、繁栄を謳歌(おうか)していました。

 

ターシャは、1971年、56歳の時に、昔から住みたいと願っていたバーモント州に広大な土地を見つけ、住み始めます。

 

建物も庭も自らのデザインでした。「四季を愛し、山羊、鶏、猫、犬、ガチョウなどに囲まれ、朝日と共に起き、自然と歩む」という暮らしは、本やテレビで紹介されると大きな反響を呼びました。

 

サリーは 農場に すんでいます 

冬から春へ 夏から秋へ 

季節がかわっていくとき サリーは 

じぶんのからだを ぜんぶつかってそれを 

たしかめます

 

という文章から始まって、サリーという少女が「目でみて 耳できいて においをかいで手でさわって 口にいれてみて季節が かわっていくようす」を感じ取っていきます。 

 

本にはノンブルもなく、各ページにはサリーの絵と2行から4行くらいの文字しかありません。ページ数は。わずか36ページ。

 

春には、野の花を見つけ、小鳥のうたを聴き、夏になると 「いちにちじゅう ほし草づくり」を眺めながら野ばらに夏のにおいを全身で感じます。

 

どんぐりやりんごに秋を見つけ、つめたい空気とたきぎのにおいを感じとって、冬をそこに発見します。

 

そこで描かれる世界は、遠い世界ではけっしてなく、私たちの家から一歩外に踏み出した、すぐそこにある世界です。 

 

エピローグは「あなのまわりにもこんなにすばらしいことが たくさんあってきっと いつも あなたが 気がついてくれるのをまっています」。

 

2008年6月18日、永眠。70年の間に出版された本は、100冊以上に及ぶといいます。

 

テレビのなかで語っていたターシャの言葉が忘れられません。

 

平凡な毎日を、自分の手で、希望に変えること。

人生は短いのよ。

文句を言っている暇などないの。

目の前の幸せを、精一杯味わうこと。

いちばんのコツは、近道を選ばないこと。