〇日、大学時代の先輩Aさんと一献。1か月前にお母さんを亡くされたばかり。
思い出話になると、すっと涙が頬を伝った。
カウンターの隅で話を聞いていたお店の人が話しかけてきた。他に客はいない。
ちょうど同じころ、ご家族の一人を失った。
よかったらビールを一杯、いかがですかとおすすめしたら
「二杯でもよろしいですか」
亡くなったご家族も、ビールが好きだった。
どうぞ。
お店の人は、カウンターの隅にひっそりと置かれた写真の前に二つのグラスを置いて、丁寧に丁寧にビールを注いだ。
Aさんとお別れし、運転代行を頼む。
10分ほどでやってきた運転手さんは、がっちりとした体形に口髭、ヤンキー風で、いかつい感じの青年。
「お兄さん、いくつ?」
「25」
「夜の仕事、大変ですね」
「昼も働いているんです」
「あら」
「大工です」
「朝、早いんじゃないですか」
「5時起き」
「じゃあ、この仕事大変ですね」
「夜、家にいても、パチンコ屋に通っちゃうだけなんで」
「へえ」
「だから、こうして暇なしで働いたほうがいいと思って」
「あら」
「兄貴分が、ここらじゃちょっと有名な職人なんです」
「へえ」
「だから、一生、勉強させてもらおうと思って」
「へえ」
「職人の仕事って、奥が深いんですよ。毎日、勉強ですよ」
「へえ」
「実は、俺、お客さんの家の近くに住んでいたことあるんです」
「あら」
「○▽小中学校です」
「へえ」
「俺、ぐれちゃった時期あって」
「いまは一流の大工めざしているんだよね」
「めざすは一流ですから」
クルマが止まり、料金を支払うとき、青年は手を差し出してきた。
私の手をすっぽり覆ってしまうほど、厚みのある大きな温かな手。
握手。
「ありがとうございますっ!」
振り向いて、少しはにかんだ顔に、幼いころの息子の面影が重なって見えた。
いい顔は、その人の生き方が咲かせる「花」である。
花を見ると、どんなときでも、人の気持ちは和むものだ。
がんばろう、私も。
I headed out on my own to shoot. Slum area. in Manila, Philippines. The children's smiling faces were like angels.