言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

帰りたい。 帰れない。

この仕事のおかげで、旅ばかりしてきた。
どこに行っても「あっ、いい景色!」と思う場所には
北海道の風景を重ねている自分がいた。
どんなに素敵な景色でも
山に囲まれた場所はどうにも落ち着かず、
知らず知らず、
大きな空と広大な景色に魅せられてしまう。



倉本聰脚本のドラマを観て、風景が映った途端、
胸がキュンとなるのも、
自分のなかに息づく原風景に感じ入ってしまうからだろう。

 


北の国から」「優しい時間」「風のガーデン」。
低湿で澄み切った空気や高く澄んだ空、
爽やかな風に凛としてなびく草花、
フウッって吹けば小麦粉のように散ってしまう高純度の雪も、
身体の内奥に記憶され、
ストーリそのものより、そんな場面を観ているだけで癒され、
そして、何より、懐かしい。


北の国から」で印象的なのは「’89 帰郷」。
純が東京で事件を起こし、蛍が恋をし、
札幌で、純がかつての恋人・れいちゃんと再開する。

 

 

 

語り「それからぼくらは駅に向かって、何も話さずえんえんと歩いた。れいちゃんは何もしゃべろうとしなかった。だけど、れいちゃんの腕からつたわるかすかな体温がぼくを暖め、ぼくにたえ間なくしゃべってる気がした」

歩く二人。

れいの声「(ささやく)何もいわないで。──わかっているから」

雪のなかにしだいに遠ざかる二人。


──れいちゃんと再開したときに用意されたBGMは
尾崎豊の「I LOVE YOU」だった。


札幌。
茶店の天窓をめざして、雪が降り注いでくる。
忘れられない場面だ。

 


富良野の家ではこんな場面もあった。

 

窓外
 雪がしんしんと降っている。

二階
 二人。

純「いいやつか、そいつ」

蛍「──」

間。
(「北の国から ’89帰郷」倉本聰 理論社



至るところで周到に用意された「間」や「──」などの沈黙。
これらが場面の空気を引き締め、
温感を高めつつ、人と人との距離を近くする。
その「間」の間にさえ、北海道の「それ」がみんな内包されたかのような
演出も秀逸であった。



北海道の春も秋も中途半端で嫌いだったのに、
いまは、どんな季節も恋しくてしようがない。