言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

世辞と世間

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三つ心、六つ躾、九つ言葉、文十二、
理(ことわり)十五で末決まる。

江戸の町衆たちに伝わっていたという子育て方法である。
言葉遣いには特に厳しく
9歳までには「こんにちは」のあとに必ず「お暑いですね」
といった一言を加えよと、教え込んだ。

この一言が「世辞」である。


辞書をひくと「相手に取り入ろうとして言う、心にもない言葉」
とあるけれど、もともとは、
もう一歩相手に踏み込んで、敬意を表する愛語でもあった。


日々取り交わすメールのなかでも
挨拶をすっ飛ばして要件のみを書く人と
前後に、必ず「今日は寒かったですね」といった
一言を添える人の2通りがある。

 

 

魔法の言葉は「大丈夫」。
子どもの頃から、何か失敗したりすると「大丈夫、大丈夫」と
おまじないのように、唱えてきた。
するとなんだか、気持ちが落ち着いて、
ほんとうに大丈夫のような気持ちになってくる。

 

自己流の言霊療法。

何千回も何万回も、この言葉を唱えてきたということは、
それだけ危ない橋を渡ったり、
失敗を繰り返してきたということでもある。

毎日小さなことで悩んだり、悔やんだり、憤ったり。
気持ちがざわめいてばかり。
「生きるって、素敵!」なんて気持ちには当面、なれそうもない。
いまさらながら、世間はやっかいだと思う。


「世間」とは梵語で「破壊され、否定されるもの」という意味。
「世間を渡る」ことは即ち、薄氷の上を、おそるおそる歩いていくようなもの。歩くではなく「渡る」が充てられていることの意味深さ。