言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

上昇下降

2年前まで取り引きのあったA社が倒産したことを
知人からの電話で知った。
おつきあいのある会社が倒産したのは、これで8件目。
どの会社の社長とも
一度や二度ならず宴席をともにし、幾度となくその夢をうかがった。


夢を語るとき、誰もがみんないい目をした。
バスに乗り遅れるな、ではなく
バスより速い乗り物を選び、飛ばしに飛ばした人が多かった。

人生は上昇と下降を繰り返す、というのは嘘かもしれない。
上昇と下降が、
この瞬間瞬間に、同時に行われている。

数え切れぬほど、前向きな話をうかがった。しかし、プラス思考は必ずといっていいほど、思わぬところに強い陰をつくる。


生きていることは死という裏付けがあり、老いて病んでこそ、醸成される精神もある。


どっちが先ではない。


上も下も、外も内も、明も暗も
両者を同時に孕みながら生きている現実を知るとき、
日々を淡々と平凡に生き切る人が、
禅の老師のような静謐な凄みを湛えて見えることがある。


衰微に向かってもなお、
内なる魂だけは上昇の途中にある。
そう言い切れるだけの心の準備はしておこう。


世話になったあの人たちに、どんな恩返しができるのか。考え始めると、後ろを向いてばかり来た自分の気持ちは下降するばかり。

 

ただ、ひたすらに、心の中で、ありがとう、を繰り返す。