子どもの頃の、床屋さん。
大人たちがみんなそうするように
顔剃りのときに眼をつぶるのが、なぜか恥かしかった。
両眼をぎっと開けたまま、倒れた椅子に横たわる。
若い見習いのお姉さんがいた。
顔に覆い被さるようにして肌に剃刀をあてる。
両眼からわずか数センチ先にあるお姉さんの目や鼻や口や細い指先。
目を見開いたまま
お姉さんの吐く息をじかに感じるたびに
全身は硬直し、
身体の奥のほうから何か熱いものが突き上げてくるのを
感じたものだった。
顔剃りが終わって「はーい、戻します」と椅子が元に戻された途端、
タラーッと鼻血が出てきた。
調髪が終わり、鏡に映った自分は不自然なまでに髪が整い、
妙にこざっぱりした顔の真ん中から、真っ赤な血が垂れていくさまは
眼を閉じることより、恥かしかった。