言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

腐りかけがおいしい。

賞味期限、消費期限がどうのこうのうるさい人がいる。
我が家では期限切れのもなど、わんさか冷蔵庫に眠っているし
最近は日付そのものが見えにくいこともあって
まったく気にしない。
せっかく買ったものを食べずに捨てることなど
昭和の生まれはやってはいけないこと。
口に入れておかしいと思ったら、吐き出せばいいだけの話だ。



学生時代、横浜駅前にあるデパ地下の豆腐屋さんで
アルバイトをしたことがあった。
デパートで豆腐や納豆を買うお客がいることに驚いたのは序の口で
かかってくる電話のクレームの多さとその内容に、
驚きっぱなしであった。

 


豆腐の角が欠けている(帰宅途中に不注意で砕けたものと思われる)、
絹だと思ったら木綿だった(そもそも絹と木綿の違いがわかっていない)
などはまだマシなほうで
なかには「納豆が糸を引いている。腐っているのではないか」
といってくる客までいた。
日本の消費者は世界一きびしいのではなく、
世界一甘やかされているのではないかと、考えるようになった。



「腐る直前のものが、一番おいしいのに」
豆腐屋さんのおじさんは、いつもそういって、ため息をついた。
「女も男も、酒もな」が口癖だったが、若かった私にはその意味がわからなかった。

 


納豆は表面が赤くなったらそろそろ終わり。
製造から10日たったころのものが最もおいしいが
多くの人は買ってすぐに食べてしまう。消費期限は1週間ほど。
製造側は、ギリギリの美味しさに賭けるより、リスクを優先するらしい。



日付を偽装するのはよくないことだが
プロの間では、案外、ほんとうの食べ頃というものを
知っているのではないか。
つい、そんなことまで推察してしまうが、
機会があったら、そうした裏話も聞いてみたい。