言葉と記憶の小径。

D's Diary./The long and winding path of my own choice.

「スノーマン」。

毎日眺めているはずなのに、狭い庭のかんばせの移ろいにさえ気づかない。昨日まで雪があり、屋根からの氷柱がタタタと滴になっていたのに、今日は湿り気たっぷりの黒い土がのぞいている。時間はこうして、静かに、速く、雪のように溶けて流れていく。

 

子どもたちが小さな頃、繰り返して観たアニメに「スノーマン」という作品があった。導入部でデヴィッド・ボウイが登場するバージョンで、彼が作者の熱烈なファンだったことはあとで知った。同じ作者の「風が吹くとき」が映像化されたときにも主題歌を歌っている。



――ある朝、男の子が目を覚ますと、窓の外は一面の銀世界。

男の子は雪だるまを作り、その夜、時計の針が12時を指したとき、雪だるまは生命を得る。

男の子と雪だるまは家を抜け出し、一緒になって、森や海の上を飛び、雪だるまたちのパーティ会場にも行って、サンタクロースからマフラーをプレゼントされたりする。

再び空を飛んで自宅へ帰った男の子は深い眠りにつく。

翌朝、目が覚め、パジャマのまま急いで外に駆けていくと、溶けて消えた雪だるまのあとだけが残されている…

というだけの短いお話である。

 

We'rewalking in the air

We'refloating in the moonlit sky

Thepeople far below

Aresleeping as we fly

 

僕らは空を歩いてる 

月夜の空に浮かんでる 

はるか下では 

みんな眠ってる 

僕らは飛んでいく

 

物語にはセリフはなく、空の旅のところでかかる"Walkin in the air"のボーイソプラノが美しい。風景も、山や海に息づく生命の生命もすべて、天から俯瞰しているかのようだ。

 

男の子は、たった一晩の間に、出会いと「死」を体験する。物語に言葉はほとんどないが、生命とか存在とか、こんなに抽象的なことが、具体的に表現されている気がするのはなぜだろう。「在ること」と「失われること」、あるいは「生」と「死」。これら対極にあるもののせめぎ合い、整合性のなさは、どんなに大量の活字をもってしても説明することは難しい。雪に溶け、消えゆくような「静かさ」だけが、人の魂に強く、深く訴えることができるのかもしれない。

 

 


作・絵: レイモンド・ブリッグズ

出版社: 評論社